日本プロレス界の巨星逝く

あぁ、死んでもうた。

破壊王橋本真也逝く。

ちっと若すぎやしないか？40歳？微妙なお年頃だけど敢えて若いのにと言っておこう。
若さだけが惜しいのではない。この興業不振の時代に彼がいなくなるのは厳しい。
それに僕が良く知っているレスラーがまた消えた。

僕が他人の肋骨を良くわからないメキシコのプロレス技で骨折させたり、友人に朝の挨拶がてらラリアートをくらって保健室に朝一で運ばれたり、毒霧と称して唾液の混じった水を霧状に噴出しすぎて「唾マニア」と女子から呼ばれる奴がいたり、ドップリとプロレスにはまった中学時代、事件は起こった。

静岡県には、かつて素晴しい時間があった。トゥナイト2からワンダフルに流れるゴールデンタイム。あれは、正直感動するくらいアホらしくてエロかった。乱一世と北野誠の顔を昼番組で見るだけで僕らの会話はピンクになった。また、ワンダフルのアニメ枠(後半)が丸々潰されて浦安鉄筋家族、凄いよまさるさんが見れなかった。替わりにやっていた番組『日本水紀行』がメチャクチャ恨めしかった。しかし名水についての知識は得ることが出来た。あの番組をトゥナイトの後に見る時、いつもち●こ出したままチャンネル変えるから、ブツを出しながら日本水紀行を見るというシュチュエーションに自殺したくなることも度々会った。
そしてその後アニメ番組が始まるのである。これが一つ目のゴールデンタイム。

そして金曜日の夜に真のゴールデンタイムがあったのである。SBSのアニメ終了後何の脈絡も無く始まるVシネ＆AVである。正式には金曜ナンチャラって名前があった筈だが失念してしまった。時間帯としては最低でも三時。ここからが僕たちのパラダイスだった。
皮のコート着てる女の奴等の半分は、『特殊捜査官』とか『警視庁●●対策特別班』だった。すぐレイプされるし、すぐ薬物。あいつらすぐ股から拳銃出して戦って、すぐ人質のせいで酷い目にあってた。ボディコン着ている奴はすぐに犯され薬漬けにされて公衆便所になる。登場人物はヤクザ・パンコ・薬中・女教師・特殊捜査官・悪い外国人(中国台湾8割・残りはロシアンマフィア)など本当にレアな職種だけが登場していた。また、男女共に学生には全然見えないのも素晴しかった。一時期僕のあだ名は『Vシネ生徒』だった。
そんな目くるめくマッドワールドが睡魔に犯された緩い頭を蹂躙する。

そんな金曜日の夜であった。

当時、新日本プロレスは橋本がいる正規軍と蝶野率いるNWOが火花を散らしていた。中学校では当然、正規軍派とnwo派に別れていた。みんな、思い思いに好きな選手の素晴しさを語っていた。愛のある人は、モノマネも極めていた。橋本の4の字固め、武藤のコンビネーション、天山のモンゴリアン、そして僕はnwoのお荷物事、ヒロ斉藤のタッグ戦でリングサイドにいる時の真似が一番似ていた。
マサ斉藤『やばいですねー。やばいですよー。』

まぁ、当然どちらが最強かで揉める訳ですが如何せんプロレスのことだから話は長い。7.11決戦！！とか闘強導夢決戦とか長引かせて話は進みません。

勉強に疲れ、アニメも見逃してしまいその日は夜の3時くらいに起きた。テレビをつけるとVシネが始まっていた。女麻薬捜査官もので、キッチリ抜く準備を整えた。ストーリーは何てことは無く進んでいき、はや終盤に差し掛かっていた。

画面では、ヤクザと女捜査官がカーチェイスしている。そして戦闘シーンが始まった。

あれ、ちょっとまてよ。どっかで見た顔だぞ、このヤクザ。

そう、ヤクザ役は新日本プロレスの面々でした。それも正規軍・nwoともに仲良くたった一人の捜査官に立ち向かっています。橋本が首絞めたり、ドラム缶投げたりハッチャケ過ぎです。結局最終的には女捜査官に纏めて爆破されてしまいました。

その悲しさ。その虚しさ、やるせなさ。

僕は泣いた。凄く泣いた。何が悲しいのか解らないけど泣いた。泣き続けた。泣きすぎて下からも白い涙があふれてしまったがこちらはすぐに泣き止んだ。

次の日学校に行くと何人かが沈鬱な表情で精気無くうな垂れていた。
「昨日、見たか？」
僕が、そう話しかけると
「おう」
と悲しく答えた。
「本当にショックだったらー」
「なぁ。あんなに凄い人らだったにね」
「だよねー、あんだけ仲悪いに現実じゃツーカーだもんね。ついでにやられちゃうしさー」
「はぁ？何の話だかしん？仲がいいって何の事よ？」
「えっ？昨日のVシネの事じゃないだ？」

空気が止まった。土曜の朝の教室に寒い風が吹いた。

「●●先輩に●●君等がやられちゃったじゃん。昨日見てないっけか？」

その後、僕はVシネ生徒からミスターVシネと呼ばれるようになった。でも後悔してはいない今は、もっと悲しい称号『ニート』を手に入れたから。所詮、僕のポジションはターザン後藤だから仕方ないと心に言い聞かせた……